トマトが好きだ。
野菜のくせに赤い。
緑黄色野菜の分類にありながらその身は動脈血のように鮮やかだ。
他に赤い野菜と言えばトウガラシとパプリカ、ハツカダイコンくらいなものだ。
しかし口あたりが厳しいそれらの野菜に比べ、トマトは甘い。
フルーツトマトなんて銘柄があるくらいにトマトは野菜の中でもその立ち位置が自在で、それでいてトマトというアイデンティティを見失わない、柔らかいのに芯のある、結婚したいタイプの野菜だ。
トマトは意外なほど使える料理のバリエーションが多い。
サラダ、スープはいわずもがな、味噌汁や鍋などの和食やトマトラーメンなんて逸品もあるほどだ。
これほど応用の利くトマトならば、きっと不意を突いた料理においてもその実力を発揮してくれると思った。
ちょうど焼きそばが冷蔵庫の中にあったので、具材にトマトを入れたトマト焼きそばを作ることにした。
夏野菜の季節、真っ赤なトマトが高揚感を誘い、まるで憧憬のような興奮を覚えるに違いない。
トマト焼きそばはトマトの水分でトマトそばになってしまった。
そしてトマトと焼きそばのスパイスソースの相性はさほどよくなく、私はしなしなしたそばをすすりながらトマトに愛想笑いを向けた。
そんなトマトも好きだ。
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